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劇作家:品田裕介、毎日記す。
演劇ユニット UMBRELLA 公式Web Site | http://umb2011.com

 

NEWS

20180414

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コーヒーのカップを持ったままデスクに戻ると、デス

クトップに付箋が貼ってある。今朝早く僕宛に電話が

あったという伝言だった。かかって来た電話番号の上

に、隣町の病院の名前が書いてある。飯田さんの入院

している大学病院だ。心臓を鷲掴みにされたような痛

みが走った。

難しい顔で書類を捲る部長の下へ行き、事情を説明し

て外出許可を貰い、急いでフロアを出た。僕が出した

名前が飯田さん以外の誰かだったとしたら、もしかす

ると出られなかったかもしれない。こんなときにまで

飯田さんの実直さが露わになったことに関心した。

タクシーを拾い病院の正面玄関に付けると、またして

も諌山と村瀬刑事が出迎えてくれた。諌山はファミレ

スでハンバーグセットを頬張っていたときとは打って

変わって、すっかり刑事の顔になっていた。それが、

余計に事態の深刻さを物語っているように思えた。

「川島、こっちだ」諌山は、まっすぐに僕を見て言っ

た。村瀬刑事は、僕の方を見ようとしなかった。

案内されたのは病室ではなく、霊安室だった。十畳程

の真っ白な部屋に入ると、顔に白い布をかけられた人

が横たわっている。もちろん、それが誰なのかは察し

がついた。でも、それが誰であるかを、必死で考えな

いようにした。部屋に一歩入ったところから次の一歩

が踏み出せない。諌山は僕の肩に手を起き、僕だけに

聞こえる小さな声で、僕の名前を呼んだ。

なんとか近づくと、村瀬刑事が、黙り込んだまま顔に

かけられた布を外す。青白くなった顔に紫色の唇をし

た飯田さんが、驚くほど安らかな表情でそこにいた。

与えられた天命を全うし、今生に一片の悔いなしと宣

言しているかのように眠っている。飯田さんはそうか

もしれない。飯田さんには、もう何もやり残したこと

などないのかもしれない。だけどそんなこととは全く

関係なく、僕の視界は涙で塞がった。

SHINADA-NO-SHIRUSHI
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