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劇作家:品田裕介、毎日記す。
演劇ユニット UMBRELLA 公式Web Site | http://umb2011.com

 

NEWS

20171118

朝日が差し込んでくる頃、パトカーと救急車がやって

きた。全員が個別に話を聞かれたあと、須藤さんだけ

が救急車に同乗していき、僕らはタクシーを呼んだ。

 

「それで、猫は?」君嶋くんの淹れてくれた紅茶は、

決して不味くはなかったが、物足りなさを感じた。

「見つからなかったよ」一応屋敷を一通り探したが

猫は出てこなかった。

「せっかくだから題材にすればよかったのに」

「できるわけないだろ」僕は紅茶に角砂糖をひとつ入

れた。

できるわけないのだ。小説の題材になどなろうはずも

なかった。僕らは、ただ怯えていただけだ。それらし

い出来事もありはしたが、物語にするほどではない。

洋館のデザインだけは参考にした。ロビーから左右に

伸びる階段や、応接間の装飾、老人の絵画、そして、

姿の見えない猫。お化けは出てこない。

クライアントの要望通りに修正をかけ、君嶋くんに装

丁をお願いし、来週には書店に並ぶ。作者が言うべき

ではないが、たいして面白くもない、ありきたりな推

理小説だ。

 

「殺人事件の現場に立ち会ったのに参考にならなかっ

たなんて、贅沢過ぎますよ」

スーパーのレジに並びながら秋穂が言った。確かにそ

うかもしれない。でも、現実なんてそんなもんだ。

僕らの生活は「そんなもん」に囲まれていて、僕は仕

事として「そんなもん」に脚色していく。

「結婚しようか」唐突に秋穂が言った。「って、いま

言おうとしたでしょ」

秋穂は作家に向いている。料理と脚色がうまい。

夕食はおでんにした。彼女の手料理で一番の好物だ。

テーブルを挟んで一緒におでんを食べる人がいる。僕

の人生は、お化け屋敷よりよっぽどドラマチックだ。

僕はたぶん、今夜プロポーズをさせられる。

SHINADA-NO-SHIRUSHI
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